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藤くん誕生日おめでとう [ばんぷ]





二日遅れですが。



Just 30th







「もうすぐ30か…」



不意にそいつがぼやいた一言で
その場の空気が凍り付いた。
否、俺の周りの空気が凍り付いた。

その言葉の通りそいつは明日
ついにめでたく三十路の大台にのるわけで
そして俺は
20年にもなろうかという付き合いのそいつに
誕生日プレゼントを用意出来ていないという
大変な事態に追い詰められていたりする。

(ゲームソフトとか…何するかわかんねぇし、
持ってるやつだったら微妙だし)
(あいつの好きなもん…良くわかんねぇな)
(いっそのこと手編みのマフラーでも渡すか…ハハ…)

「だよねー!」

背後から元気の良い声が響いて
イイ感じに現実逃避しかけた意識がうっかり飛びそこねた。

「チャマくんがとびっきりのプレゼント用意してるから楽しみにしててねん♪」

「おう」

嬉しそうに笑うそいつ。
更にもう一人も話に便乗してきた。

「俺もねー、前から藤くんが欲しがってたの準備してんだ~」

「えーマジで?何だろ?」

「へへへ、内緒」

ふんわりとした雰囲気がチャマとヒロとそいつ…藤くんを包み込み
蚊帳の外に放り出された俺は妙な焦りを感じていた。
極めつけに
三人からの痛い…もとい、期待の眼差し。
冷汗が背中をつぅっと伝い
その方向に振り向くことが出来ないでいると
いつの間にか次の話題になっていた為
ほっと胸を撫で下ろした。
(あー…どーしよー…)

ポコポコ無意味なリズムを叩きながら
ぐるぐるぐるぐるそのことばかりを考えてしまう。
そうこうしているうちに一日が終わってしまった。
明日はオフということもあり
前々から決めていたことではあるが
今日藤くんの誕生日パーティーをしようと
チャマ引率のもと
パーティー会場へ大移動。

何も持たないまま会場へ着き
貸し切りで行われたパーティーは着々と進行。
ついにその時が来てしまった…。

幹事がマイクを通して告げる。

「はい、みなさーん!
ここでプレゼントタイムでっす♪
心を込めてプレゼントを渡して下さいね♪」

それはまるで死の宣告のようだった。
藤くんは促されるまま開けた場所で待機。
スタッフから順番に渡していき
すでにプレゼントやら花束で両手いっぱいの藤くんは困ったような、けれど嬉しそうな顔。

「次にメンバーからのプレゼントです」

幹事が名指しでいましがた目の合った俺の名前をコールしようと口を開いた。
まさに、その時。

「ちょっと待った!」

ざわついた会場がしんと静まりかえり
声の響いた方向へ振り返る。
声の主はチャマだった。

「俺ら個人からはちょっと別枠で渡したいんでぇ」

そう言ってチラッとチャマがヒロに視線を送ると
ヒロがいつの間に用意したのか大きな包みを
藤くんの目の前に差し出した。

「俺ら三人から!」

(………三人?)

ということは、俺含め?
そういえば先週の頭ぐらいにそんな話をしていたような…。
無理に強奪された数千円はこの為だったのか。

「中身は後からのお楽しみ♪」

ウフンとウインクするチャマの
ナイスな機転のおかげで首の皮一枚繋がったから
まあいいんだけども。

(後は…どうにかごまかすか)

鈍く痛む頭をビールでごまかし
俺の上がらないテンションを置き去りにパーティーは盛大に終わっていった。

二次会には参加せず
そのまま藤原宅へ転がり込み
俺らだけでパーティーを仕切り直した。

「改めて、藤くんおめでとー!」

日付はすっかり変わり、
とうとう藤くんは30歳になった。
小さなケーキに刺さった[3]と[0]を象った蝋燭に火を灯し
チャマが部屋の明かりを消した。
ケーキを挟んで向こうに藤くん。
手前に俺とチャマとヒロ。
三人がバースデーソングを歌い終えると
「ありがとう」と照れながらケーキの火を藤くんが吹き消した。
辺りは真っ暗になり
異変はその時に起こった。

「ヒロ、今だ!」
「おっけぃ♪」

「え、うわっ!?」

チャマの号令でヒロが何かをしたらしく
俺はどういうわけか身動きが取れない状態になってしまった。

「ちょ、え?何??」
「電気点けて~」
「あいよ」

ぱっと急に明るくなり、
蛍光灯の不自然な眩しさに目を眩ませていると
俺以外の三人が俺を覗き込むように座っていた。

「何?どういうこと?」

藤くんが怪訝な表情で二人の顔を交互に見ている。
それを受けてチャマが言った言葉が
余りにも突拍子もないもので、
理解するのに酷く時間がかかった。

「あのね」

「これが俺らが用意した」

「とっておきのプレゼント!」

(これ?)

これってなんだ?
藤くんも不思議そうな顔をしている。
と思った次の瞬間には
何故か満面の笑みを浮かべていた。

(藤くんすげぇ嬉しそうなんだけど)

意味わからん。
どういう状況なんだ。
ヒロとチャマも満足げに笑い、

「じゃあ、俺ら帰るわ」

と言って立ち上がった。

「は?何それ。俺は?」
「だからー」
「秀ちゃんがプレゼントなんだってば」
「プレゼント?俺が?」
「ま、すぐにわかるから。」

ニコニコ笑う二人。
状況の飲み込めない俺。
藤くんは相変わらず俺の傍で俺を眺めている。
その藤くんにチャマが言った。

「あ、さっき渡したやつ、イロイロ入ってるから。
使ってみてよ♪」
「わかった。サンキュ」
「それじゃ、ごゆっくり☆」

いつものチャマスマイル。
だけどこんなに不安を煽るものだったかな。
よくわからない汗がこめかみ辺りから流れ落ちた。
動けない俺に「ちょっと待ってて」と言って
藤くんは二人を見送りに行った。
何気なく視線を身体の方へ移すと
どでかいピンクのリボンが胸の辺りに見えた。

(俺が……プレゼント?)

(これ、リボンで縛られてるんだよな、たぶん)

(ごゆっくり………?)

(藤くんは…俺をどうしたいんだ?)

この状況に対する疑問ばかりが頭を占めて
逃げるとか
紐をどうにかして解くとか
っていう考えに辿りつけないまま
藤くんが帰ってきてしまった。

「お待たせ」

藤くんは再び俺の傍らに座ると、
細い目を更に細めて俺を眺めた。

「リボン可愛いね、升。すげぇ似合ってる」

ふっと笑う藤くんに
「んなわけねーだろ」って返そうと開いた口は
何やらふにふにとした柔らかいもので塞がれ
同時に藤くんのこれ以上無いぐらいの
ドアップの顔が視界を占めた。
さらさらした髪が頬や首にあたってくすぐったい。
ぬるっと口の中に何かが入ってきて
反射的に舌で押し戻そうとすると、
逆にそれが絡み付いて吸われてるような感覚がした。
いや、実際に吸われていたんだ、うん。
そこまできて、俺はようやく、キスされたことと、事の重大さに気付いた。

(このままだと………喰われる!)

で、気付いたものの、だ。
時、既に遅し。
酒の回った身体は勿論いうことを聞いてくれるハズもなく
藤くんはどう説得しても止めることはできなかった。

「据え膳は残さず頂く主義だから、俺。」

そう言って綺麗に笑った藤くんは、
パーティー会場で貰ったプレゼントをフル活用して
隅から隅まで据え膳(俺)を余さず堪能したのだった…。



☆HAPPY END☆



(ところであのプレゼント、何々入れたの?)
(えっとー、猫コスセットでしょー?ローションでしょー?オ●ナインにぃ、苺味のゴムとぉ、それからねぇ)
(なんか…一式揃えましたって感じだね)


(升ぅ、大好き☆)
(藤原もチャマもヒロも大っ嫌いだ!)
(照れちゃって♪)
(ばかぁ!あっちいけ!)
(ぎゅう)
(いやーーー!)
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